で聴ける。
さらに、Eveの人たちのより複雑なドラムの演奏も、MIDIの音のサンプルになっている。
西アフリカのガーナの音楽家と民族音楽学者たちが一緒につくっている<CHAINS>というサイトの中の<tele> によると、ポリリズムと並ぶ西アフリカの音楽の特徴は、"call-and-response"(呼びかけと応答)という形式にあるという。この形式も、奴隷として連れてこられたアフリカ人がアメリカに持ち込んでいるのいるので、日本でもお馴染みのものになっている。しかし、西アフリカでは、"call-and-response"は太鼓言葉の応答の形をとるのだという。この地域の言語の特徴のせいもあって、太鼓の音のパターンを言葉の替わりに使う文化が発達しているからだ。この太鼓言葉は祖先の加護を呼び、抑圧者との闘いの際にEveの人たちを一つにする力をもった。
このように、西アフリカでは、リズムの合成という面でも、メッセージの応答という面でも、太鼓をはじめとする打楽器どうしの対話が高度に発達している訳である。
▼響き合うバリのガムラン
ガムランは、たくさんの演奏者が限られたパートのそれ程複雑ではない演奏をし、それが合わさることによって、きわめて複雑な音楽をつくりだすような構成になっている。
ガムランの音楽では大小の青銅のゴングの音が重なりあって、音のうねりのパターンをつくりだし、そのパターンが周期的にくり返されていくところに特徴がある。例えば、図の円が頂点の所で大きなゴングが1回たたかれてからの時間を表すとすると、この間に小さめの吊り下げ型ゴングのクンプル(図の+の箇所)、台におかれた壺状のゴングのクンプリ(図の-の箇所)がそれぞれ3回ずつ打たれる。こうした周期的に打たれる大小のゴングの音が重なってあの独特な音のうねりのパターンになる。ガムラン音楽では、こうした音の周期的なうねりと、旋律とが組み合わせられていく。そして、旋律を打つ場合にも、複数の演奏者に独特の形でパートが割り振られる。
<World Rhythm Training>の<Balinese Gamelan>では、ガムランの旋律楽器のこの独特の演奏法がとりあげられている。ヨーロッパの古典音楽では、二つの楽器の一方が主旋律を弾くと、他方が伴奏部分を演奏するという役割分担をすることが多い。ガムランの旋律楽器の役割分担の仕方は、これとまったく違って、一対の楽器が交互に出す音が重なって一つの旋律になるような弾き方をする。<Balinese Kotekan Types>には、一対の旋律楽器が演奏するそれぞれ部分の楽譜が下図のように例示されていて、その音をMIDIで聴けるようになっている。
『Ancient Future』より
さらに、こうした原理による本格的な演奏の例もMIDIで聴くことができる。
一対の楽器は一方が男性、他方が女性とされていて、こうした対をなす楽器の連携で旋律をつくりだしていくという考え方は、二元的な要素の対立と結びつきによって世界が成り立っているというジャワ、バリの宇宙観からきているという。
いずれにしても、一つの旋律を一対の楽器で分担して弾き、うまく合うためには、息を合わせる鋭い感覚を必要とする。バリのケチャの場合も、ガムランの演奏と同じ原理で、チャチャという単純な発声が組みあわせられて複雑なリズムになる。一人一人の発声は簡単だが、全体で息を合わせるのが難しい。バリの人たちは、多数の人が息を合わせる鋭い感覚を身につけているのでこういうことがうまくできるらしい。そのため専業の音楽家がいる訳ではないのに、小さなパートが重なりあい響きあって、あのきらめくような素晴らしいガムランの演奏が生み出される。
▼インド音楽の複雑なリズム周期
インドの古典音楽は、深淵な思索を好むこのクニにふさわしい、きわめて高度な体系をつくりあげている。この体系は、音楽の主題の面ではラーガ、リズムの面ではターラという概念が基本になっていて、演奏の際にはこの両方が組み合わせられていく。
World Rhythm Trainingの<Indian Rhythmic Cycles>では、ターラをひとつの典型的なリズムの概念として、詳しい展開がされている。
ターラというのは、何度となく繰り返されるリズムの周期を指す概念で、これは生命の輪廻というヒンドゥ哲学の宇宙観と結びついているのだという。人が生まれ、一生を過ごし、死んで、再び新たな生命をえて生まれるという周期を繰り返すように、ターラでは、リズム周期の一拍目で旋律やリズムの重心となるサムから始まって一巡りして再びサムに戻ってくる。
といった具合にターラの説明がされているが、これだけでは何だかよくわからない。ターラとはどんなリズムの周期なのか、実際に聴いてみた方がよさそうだ。
<Talas>では、約350種類あるという北インド音楽のターラのうち、10種類を例としてとりあげている。たとえば、Dhammar というターラは、1周期が14拍からなり、5+2+3+4に分割されるという。この音をMIDIで聴いてみると、ターラのリズムの周期というのがどんなものか、多少はわかってくる。
このターラを覚えるのに、タブラーという打楽器の奏者は、|: kat dhe te dhe te/ dha */ ge te te/ te te ta * :|といった歌を口ずさむ。中川博志さんの<Indian Music Home Page>の中の「天竺音楽入門データベース----インドの楽器」の「タブラー」で説明されているように、 katとかdheとかは、どちらの手のどの指でどうたたくかといったタブラーのたたき方を表している。"*"の記号は休止部分である。Indian Rhythmic Cyclesの例としてあげられているターラの中には、Chartal Ki Sawari のMIDI Fileのようにとても複雑なものもある。
ターラは、このようにきわめて複雑なリズムの体系をつくりあげていて、タブラーの奏者は長期間の訓練を経て職人的な技術を身につけていく。
▼インド古典音楽の即興性
インドの古典音楽は、上で見たリズム周期のターラと旋律の型としてのラーガをもとに高度な体系をつくっているが、面白いのは、インド音楽ではその時と場に応じた即興性を重視するため、体系といっても優れた即興演奏を生み出す部材や大枠を提供するように工夫された体系だという点だ。
そのため、インドの古典音楽の演奏会も、ヨーロッパの古典音楽のように細部まで楽譜に規定されたものとは、まるで違う。ヨーロッパの古典音楽の演奏会では、○○の作曲した△△という曲というようにプログラムがあらかじめ決まっているが、インドの古典音楽の演奏会では、演奏家が舞台に上がる前に決めたラーガを展開していくのだという。ラーガというのは、その時と場に応じてさまざまな形で育て開花させていくことができる音楽の種子のような役割をもつと考えていいだろう。インドには、さまざまな感情、季節、時間にふさわしいとされるさまざまなラーガが無数に知られている。「ラーガとは何か」を簡単に説明するのは困難なようなので、中川博志さんの<Indian Music Home Page>の「天竺音楽入門データベース-------インド古典音楽について」の中の「ラーガ」を参考にしていただきたい。例えば、ミヤーン・キ・サーラングというラーガは、
上行: ド レ ファ ソ シ(♭) ラ シ ド
下降: ド シ(♭) ソ ファ レ ド
という音の列によって表される。
"Indian Music Home Page"では、アラーパとガットという部分からなる演奏会の説明がされている。アラーパは、打楽器のタブラーをともなわないソロ演奏であり、「主奏者は、まるでゆっくりと階段を上っていくように、一つ一つの音とラーガのもつムードを確立していく。」その後、ラーガの可能性を、その場にあわせて即興的に展開していく。
後半の、ガットは、主奏の楽器と打楽器タブラーの合奏になる。といっても、タブラーの奏者は、どんなターラが出てくるかを知らされていず、主奏者に提示されたターラを聴いてタブラーをたたき出す。主奏者とタブラー奏者は、それぞれ即興的に旋律パターンやリズムの変形を繰り出しながら、かけ合いをしていく。両者のテンポはしだいに加速していき、技術的な限界に近い速度まで盛り上げていくのだという。
このように、インドの古典音楽の演奏会の曲は、ラーガとターラという基本要素をもとにしながら、即興的な形で生み出される。
▼アジア音楽の対話の試み
上でごく一部をたどってみたが、世界には実に多彩な音楽文化がある。それぞれの伝統の優れたところを継承していくことが大事だが、こうしたさまざまな音楽文化は、それぞれが孤立して伝えられてきた訳できなく、色々な流れが相互に混じり合い、影響しあいながら、発展をとげてきた。だから、それぞれの音楽文化を固定して考えるのではなく、異なる文化の対話や交流を試みていくことが面白いし、その中から新たな可能性が見えてくるかもしれない。
そうした試みのひとつが、国際交流基金が助成しているAsian Fantasy Orchestraである。
アジアの各地域の特徴的な旋律、リズム、旋法、楽器、即興性といったさまざまな音楽的な要素を織り込んだ創作曲をつくり、各地域からの演奏家が参加するオーケストラを編成し、アジアのいくつかの都市で演奏会を開くというブロジェクトである。
このAsian Fantasy Orchestraのメンバーの一人である、中川博志さんの<Indian Music Home Page>の中には、このオーケストラの体験を記した「AFOツアーよれよれ日記風報告」がある。これを読むと文化交流とは口で言うのは簡単だが、強いエゴをもち、文化的な背景が違う音楽家たちの共同作業はなかなかの難題であることがよくわかる。しかし、アジアのいくつかの都市をまわり、最後の公演の東京では、ようやく演奏家どうしの一体感が生まれるようになった、という話はちょっと感動的だ。
さて、インターネット上の世界の音楽文化の旅は、いかがだったでしょうか。皆さんのご意見、ご感想をメイルでお送りください。
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